
皆さんはデザイナーズマンションと聞いて、どんな物件を思い浮かべますか?コンクリート打放しの外観の建物でしょうか?それとも高級な仕様のタワーマンションでしょうか?はたまたリゾートホテルのようなスタイリッシュな賃貸物件でしょうか?
世の中にはデザイナーズマンションという言葉が溢れていますが、実は定義が曖昧なため、人によって思い浮かべるイメージが異なるという現象が起きてしまっています。
「デザイナーズマンションに住みたいけど、そもそもデザイナーズマンションって何だろう?」という方のために、本記事ではデザイナーズマンションに住みながら賃貸管理会社の会社員としてデザイナーズマンションの計画をおこなっている私が、デザイナーズマンションの定義について分かりやすく解説していきます。本記事を最後まで読めば、巷にあふれる偽デザイナーズマンションに住んでしまう心配もきっとなくなりますよ。
デザイナーズマンションとは

結論から言ってしまうと、デザイナーズマンションに明確な定義はありません。
例えば不動産業界で「新築」という言葉は、「竣工後1年未満で、かつ未使用の状態」の物件にしか使用できないことが定められています。そのため、新築でも1年が経過してしまうと「新築」としては募集ができなくなります。
一方で「デザイナーズマンション」という用語には不動産業界で決まりが無いため、ちょっと内装がおしゃれなマンションだったり、間取りが奇抜なだけの物件がデザイナーズマンションと呼ばれているのをよく目にします。これでは集合住宅に住む消費者も混乱してしまいますね。
デザイナーズマンションの一般的な考え方
Wikipediaには次のような解説があります。「建築家」という言葉がキーワードですね。
建築家のコンセプトが前面に表れた集合住宅のこと。
Wikipedia
大手の不動産ポータルサイトのSUUMOは次のように定義をしています。同じく「建築家」という言葉がキーワードです。
SUUMOでは、「建築家が設計したもの」=「デザイナーズマンション」と定義しています。
SUUMO
一方で、仲介業者のグッドルームには次のような記載があります。「こだわりが見られる」ものもデザイナーズマンションと定義しています。ちょっと曖昧ですね。
部屋のコンセプトがはっきりしている。建物や、内装に統一感があり、こだわりが見られる。新築などで、建築家、デザイナーの名前が明確。
グッドルーム
デザイナーズマンションという言葉はいつ生まれたか
そもそもデザイナーズマンションという言葉は、いつ誰が使い始めた言葉なのでしょうか。
建築家の渡辺真里さんと木下庸子さんによる著書『集合住宅をユニットから考える』には、次のような記述があります。少し長いですが引用します。
1995年に完成した、谷内田章夫さん設計の賃貸集合住宅「SQUARES」は、まさにデザイナーズマンションブームのスタートとなった。賃貸集合住宅を探そうと思っても軒並み「仮住まい的」なありきたりの賃貸住宅しかマーケットに存在しなかった時代に、谷内田さん設計の打ち放しコンクリートの集合住宅はかなりインパクトがあった。〈デザイナーズマンション〉という言葉自体、「SQUARES」完成後、ブランドに弱い日本社会にアピールするために日経新聞が使用した〈デザインマンション〉に始まったという。それを住まいを扱うファッション系雑誌が〈デザイナーズマンション〉という名で世に普及させたのだそうだ。
『集合住宅をユニットから考える』
このSQUARESという物件は、デザイナーズマンションの管理会社のタカギプランニングオフィスが企画したもので、現在もHPに掲載されています。
まとめると、1995年にタカギプランニングオフィスがこれまでのありきたりな賃貸住宅へのアンチテーゼとして谷内田さん設計のSQUARESを完成させ、それを新聞や建築雑誌がキャッチーに「デザイナーズマンション」と紹介したことが始まりだと言えます。
「建築家が設計した集合住宅」では野暮ったいため、一般の消費者の目に止まる「デザイナーズマンション」という言葉が生まれたのでしょう。
少し話がそれますが、先ほど引用した『集合住宅をユニットから考える』という本は、日本の集合住宅の軌跡がインタビュー形式で分かりやすくまとまっています。専門家ではなくても、一般の建築好きの方にもおすすめの一冊です。ただ絶版になってしまっているので、気になる方はAmazonや古本屋で探してみてください。
デザイナーズマンションの定義
以上をまとめて、デザイナーズマンションを次のように定義したいと思います。
「建築家がきちんと設計した集合住宅」
とてもシンプルですね。つまり、グッドルームのHPに説明があるような「部屋のコンセプトがはっきりしている。建物や、内装に統一感があり、こだわりが見られる。」などは、建築家が関わっていなければ正確にはデザイナーズマンションではない、という結論になります。
ただ、集合住宅は建築家だけが建てるわけではありません。建築家が設計し、オーナーが費用を出し、施工会社が建築します。また、不動産会社が周辺のニーズに合うプランを提案する必要もあります。建築家のコンセプトだけが前面に出ているわけではなく、様々な関係者がコラボレーションをしてやっと完成する。それがデザイナーズマンションなんです。デザイナーズマンションを建てるオーナーは、質の良い賃貸住宅を供給したいとか、良い街並みに変えていきたいとか、後世に残る建物を建てたいとか、一つの明確なビジョンを持った方が多いです。
デザイナーズマンションのよくある3つの特徴

デザイナーズマンションとは何か?が分かったところで、具体的にデザイナーズマンションの特徴を見ていきましょう。
1 コンクリート打放しの外観や内装であることが多い

建物の構造は大きく分けて鉄筋コンクリート造、鉄骨造、木造の3つがありますが、鉄筋コンクリート造のデザイナーズマンションの場合、コンクリート打放しの外観や内装であることが多いです。
建築家は色や柄の付いている壁紙を嫌いますし、カリフォルニアスタイルや洋館風など、特定の地域のデザインの真似事は絶対にしません。その代わり、素材そのもの風合いを活かしたシンプルなデザインを好みます。そのため、結果的にコンクリート打放しのデザインが多くなります。
それ以外にも、エキスパンドメタルやFRPグレーチングなどの工業製品や、シナ合板などの木材が使われることも多い印象です。
2 メゾネットやロフト付きの部屋が多い

日当たりが悪い位置でもメゾネットにして開放的にしたり、狭い部屋でも天井高を高くしてロフトをつけたり、建築家は色々な工夫をして設計をします。そのため、一つの建物でも間取りが何パターンも用意されていることが多いです。
ハウスメーカーによる集合住宅は同じようなワンルームの複製であることが多いのですが、デザイナーズマンションはメゾネットだったりロフト付きであったりと、様々なバリュエーションがあります。
3 照明はダウンライトやダクトレールであることが多い

建築家は天井の引っ掛けシーリングを好みません。理由は簡単で、ダサいからです。
その代わり、壁につけられたダウンライトや天井につけられたダクトレールを好みます。そのため、間接照明のように少し暗めのムーディーな印象であることが多いです。また、昼白色の白っぽい色よりも、色温度の低い電球色の温かみのある色を好む傾向もあります。
デザイナーズマンションだと誤解されがちな3つの特徴
一方で、「これがあればデザイナーズマンションだ」と誤解されがちな特徴についても見ていきましょう。
1 浴室がガラス張り
部屋が狭く見えないよう、確かにガラス張りの浴室のあるデザイナーズマンションもありますが、巷にあふれるガラス張りの浴室の物件はほとんどがデザイナーズマンションではなく、建築家が設計していない偽デザイナーズマンションです。
建築家が意図を持ってガラス張りにしたものを不動産会社が真似て、何でもガラス張りにすればいいと思って乱開発した残念な結果です。
内見をした際に、明らかに使いにくいガラス張りの浴室があった場合、それは偽デザイナーズマンションである確率が高いのでやめておきましょう。
2 エントランスや設備が豪華

タワーマンションや分譲マンションに多いのですが、建物のエントランスの天井高が高く、コンシェルジュがいて、豪華なソファが置いてあるようなところや、トレーニングルームがあり、食洗機が付いていて、セキュリティシステムが導入されているようなところを、ただそれだけでデザイナーズマンションだと思っている人がいます。部屋自体は何のデザインも考えられていなく、陳腐なことが多いです。
見栄っ張りな富裕層にありがちで、不動産業者が設備を詰め込めるだけ詰め込んで豪華に見せただけの物件に住んでいるだけにも関わらず、デザイナーズマンションに住んでいると自慢げに話す人たちがいるんですね。これも偽デザイナーズマンションです。
3 壁の一面に色が塗ってある

ハウスメーカーの建物や古い木造アパートの内装だけをリフォームしてデザイナーズマンションと謳っているものもありますが、これも偽デザイナーズマンションです。壁紙の一部をグレーやネイビーにしたり、壁にレンガ調のパネルを貼ったりすると、一見するとおしゃれに見えなくもないんですが、それは建築家のデザインとは対極にあります。
建築だけでなくデザイナーの佐藤可士和さんやnendoの佐藤ナオキさんのデザインを見ると、白や黒の組み合わせによるシンプルな構成であるにも関わらず、考え抜かれたコンセプトがあることがわかります。
素人が壁に色を塗ったりしただけでは、デザイナーズマンションにはなりませんよね。
デザイナーズマンションの具体例
それでは最後にデザイナーズの特徴をより具体的にイメージするために、私が住んでいる築30年の部屋をちょっとだけご紹介します。







まとめ
いかがでしたか。本記事では、デザイナーズマンションを「建築家がきちんと設計した集合住宅」と定義しました。
デザイナーズマンションの見分け方のコツとしては、デザイナーズマンションなら必ず建築家の名前が出てくるので、不動産屋のHPや募集図面に建築家の名前の記載があるかどうかを確認しましょう。建築家の設計ではないにも関わらずデザイナーズマンションと謳っているものは、100%偽デザイナーズマンションです。
ちなみにSUUMOで「デザイナーズマンション」と検索してみると…、

全然デザイナーズマンションではない物件もデザイナーズマンションと紹介されています。ひどいですね。

デザイナーズマンションを探すなら大手のポータルサイトよりも、デザイナーズマンションだけを扱っている不動産業者がおすすめです。